2011年10月9日日曜日

千曲川旅情の歌


    千曲川旅情の歌   島 崎  藤 村
   一
小諸なる古城のほとり 
雲白く遊子(いうし)悲しむ
緑なす繁蔞
(はこべ)は萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾
(ふすま)の岡邊
日に溶けて淡雪流る

あたゝかき光はあれど

野に滿つる香(かをり)も知らず
淺くのみ春は霞みて
麥の色わづかに靑し
旅人の群はいくつか
畠中の道を急ぎぬ                                  

暮れ行けば淺間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む 
   二
昨日またかくてありけり
今日もまたかくてありなむ
この命なにを齷齪
(あくせく)
明日をのみ思ひわづらふ

いくたびか榮枯の夢の
消え殘る谷に下りて
河波のいざよふ見れば
砂まじり水巻き歸る

嗚呼古城なにをか語り
岸の波なにをか答ふ
(いに)し世を靜かに思へ
百年
(もゝとせ)もきのふのごとし

千曲川柳霞みて
春淺く水流れたり
たゞひとり岩をめぐりて
この岸に愁
(うれひ)を繋(つな)


高校生のとき強制的に覚えさせられた島崎藤村の詩。ふと思い出したので.... そういえばやはり高校のとき第3学期の国語の授業を全部費やして、同学年の約200人が一斉に夏目漱石の『こころ』を読まされ、期末試験は丸半日使って感想文を書かされたっけ。どっちもいい思い出になった。これも読み直してみると、実にいい詩だねえ。 今思えばみーんないい先生だったんだな。(けど、国語は嫌いだったな!)

なお、写真は小諸城からの千曲川の眺めetc.だそうです。